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雑念信念懸念無念

こんにちは、こんばんは。皆さんモンスター狩ってますか?
私は未だにドラゴン狩ってます。なかなか新しいゲームを始められないです。
それでもクッキーは焼いているという。

長らく文を書かなかったのですが、三連休の間に何かひとつ書こう!と思い立ち、
書きたいものを考えたら、以前あげたななぞじ文をちょっと掘り下げたくなりました。
具体的には褐色バンダナ。彼を格好よくしたい欲といじめたい欲が入り乱れてさあ大変!
ななぞぞ男子ではバンダナくんが一番好きなのですが、褐色になると外観好み補正で三倍増しになります。
男女総合でいくと赤でこちゃんが最愛。
例の設定資料集もバンダナくんと赤でこちゃんがオシャレしてすごく近くにいたので、興奮のあまりセガストアで予約しました。
いやあ楽しみ!早く読みたいものっすね!
閑話休題!



難波六城(ムツキ)/外観:ハッカー男(緑バンダナ)/職業:サムライ/CV:杉田智和
天才一家難波家の落ちこぼれ。お陰で思うところ多し。自慢は料理の腕とちょっとの勘の良さ。

加賀宮未来(ミライ)/外観:サムライ女(緑髪)/職業:サイキック/CV:日笠陽子
ムツキと同級生で、彼に憧れている節がある。能力に目覚めたばかり。自慢じゃないけど超能力は強い。

難波一飛(イチヒ)/外観:トリスタ男(赤スーツ)/職業:サムライ/CV:江川央生
天才一家難波家の現当主。ムツキの兄貴分で会話下手の人見知り。自慢は剣、剣しかない。



ネタバレはないです。ななぞぞ本編とまるで関係ないです。




 この世が弱肉強食で成り立っているとして、強者を差し置いて生き延びた弱者に、はたして価値はあるだろうか。

 脳裏に浮かぶ雑念を払うべく、木刀を振り続ける。すっかり木刀がなじんだ両手だが、真剣を握るとどうにも頼りない。心に覚悟を決めたとしても、本能はどうしても臆病だ。
 あの時だってそうだった。ムツキはぼんやりと思い出す。
 両親を目の前で殺された時は、両手のみならず全身が硬直した。
 怒りはなかった。あったのは絶大な恐怖だ。理性をも蝕んだ恐怖は自身の生死すら見失わせた。思い出すだけで生きた心地がしなくなり、不快な汗がにじむよう。
 木刀が空を切る。ドラゴンはいない。
 両親を食べた怪物に、しかし不思議と復讐心は沸かなかった。やはりあるのは恐怖だけ。怒りがあるとすれば、怯えているだけの自分自身に対してだ。

「俺は弱えぞ」
 素振りを止めないまま簡潔に返す。想像していたよりもしっかりと声に出せたし、内心も穏やかだ。一面の事実として受け入れられているのだと改めて自覚する。
 さて、問題は彼女だ。壁に寄りかかっていた加賀宮ミライが、驚愕のあまり大きな瞳を潤ませ、微かに体を震わせて始めたのだ。「難波家はすごい家だって聞いて、びっくりしたけど納得もしたんだ。だって、ムツキはとても強いからな」嬉々として話しかけてきた同級生に、さて現実を教えてやろうと正直に告げたはいいものの、まさか泣くほどとは思わなかった。
「だ、だってムツキはすごく強いじゃないか。フタバとも渡り合えていたし、クラスでも、ムツキはすごいやつだってたくさん言われてたぞ」
「高校のクラスの一等賞がみんなみんなすごく強いなら、日本はとっくに平和だし」
「それでもムツキはすごく、すごかったんだ! それにムツキは、難波なんだろう?!」
「難波家は強くても、難波ムツキはそこまでじゃねえの。あまりに弱いから、色々と諦めてきたし、色んな奴に諦めさせちまったぐらいだ」
「う……うう……」
「……加賀宮、お前ちょっと落ち着けや」
 振っていた木刀を下ろし、軽く汗を拭ってから彼女の頭を二、三度叩く。それでも治まる気配がないので止む無く力を入れて叩いてみれば、ようやく瞳を持ち上げた。過度な水分を含んだそれは、光を放っているのではと錯覚するほど輝いている。見つめられるのは得意じゃない。
「……ムツキは、自分は弱いって言うのか?」
「対ドラゴン用の戦力としてみたら、間違いねえな。同じS級とやりあっても多分負けるわ。簡単なゲームや料理対決ならそこそこ自信があるんだけどよ」
「私は、ムツキやフタバのそばにいたくて、でもその時は戦えなくて。だから力を手に入れて強くなれたことがとても嬉しかったのに。それでムツキが弱いっていうなら、私はムツキのそばにいれないの?」
「わり、もうちょっと整理してくれねえか」
「ごめん……っ。でも、でも私は……、二人のそばにいたくて……!」
「実力の差で切れるような縁じゃねえだろ。特にお前と杉下はさ」
「フタバは強いし、私も強いけど、ムツキもそこにいてほしかったんだ……!」
 今にも大声を上げて喚きそうな様子に焦燥感が湧き上がる。
 彼女はつい最近、超能力者として覚醒したばかりだ。制御用の篭手をつけているとはいえ、凄まじいポテンシャルを秘めながらも訓練段階の未熟者が感情を荒ぶらせたら、何が起こるか分からない。
 先までの会話を反芻し、適切ななぐさめ方を模索したその結果。
「泣くな、弱虫」
 すぱん、小気味いい音を立てて頭をはたく。手荒な真似になったが、むせぶことをぴたりと止めたのでそれなりに効果はあったらしい。
「……弱虫? 私が?」
「そーだ」
「ドラゴンを倒せる力を持っているのに?」
「この程度のことですぐ泣くようじゃ、どんだけ強くても弱虫だ。泣き虫でもいい。いっそ合わせて泣き弱虫とかどうだ」
「……ムツキは泣かないのか?」
「泣くかよ」
 一年前、自身の実力不足を呪うあまり鬱状態に陥ったことは黙っておく。
「俺は弱いけど、弱虫じゃないんでね」
 加賀宮ミライが息を呑む。発した声は震えていた。
「弱虫は、ムラクモ13班にいられないの?」
 人類の希望が口にするには、あまりにも情けない台詞だった。いっそ落胆すら覚えるほどに。しかし情けないでいうならばムツキも彼女を笑えない。この質問だって笑えない。
「……ドラゴンに対抗できるスキルを得ているのが、ムラクモ13班の絶対的な条件だ。弱虫な部分が足を引っ張るかもしれねえけど、除名の直接的な原因にはならねえんじゃねえか」
「じゃあ」
 言下に口を挟みながら、表情にはためらいがある。きっと、続く言葉は自分にとって気持ちのよくないものだ。確信めいた直感が告げる。
「ドラゴンに勝てない、弱いムツキは、13班にいられるの?」
 ああ、やっぱり。
 一年前に蓋をした、黒くて暗い霧のような感情が胸の奥底から現れる。
 表に出すのは憚られた。愚痴や八つ当たりは趣味ではない。それ以上に、自分なんかに憧れている彼女に、自ら汚い面をさらけ出すなんて、あまりにみっともないではないか。
 男として生まれたからには、好いてくれる女の前では格好をつけておきたいのだ。
「……お前なんか勘違いしてねえか?」
「え?」
「俺は弱いし、それは嘘じゃない。だけど戦えないわけじゃねえんだ。戦う力を持っているが、戦闘面で特出したものがなくて伸び代もあんまない、だから弱いってだけ。対抗手段を持っている以上、いくら大したことなくても、弱いから止めますなんて言えねえの」
「だけど、さっき自分で言っていたじゃない! ドラゴンの戦力にしては弱いって。他のS級にも負けるって。それで、力が及ばなくて……死んじゃったらどうするの!」
「戦ったら、惨めに負けて無残に死ぬ。こんな泣き言が戦場を去る免罪符になるもんか。つか、そんな恥ずかしい台詞を吐いたら――親父やお袋に合わせる顔がなくなっちまうしよ。資格を持って13班になっちまったらもう抜けれない。いれるとかいれないとか、そういう問題じゃねえんだ」
 13班とはそういう役職で、苗字にそれを課せられた時から自由は失われていた。実力が免罪符にならないとは、ヒーローも存外辛いものだ。ヒーローの資格が能力だとすれば、資質は意志にあるのかもしれない。非情な現実に耐え切って乗り越えるほどの精神力。きっとそれは自分にないもの。恐らく目の前の彼女にも。
「だからさ、せめて籍を置いていても恥ずかしくないように、弱いは弱いなりに頑張ってるんだぜ。俺なりの戦い方? ベストな刀の使い方? ま、そういうのを見出そうと、色々あがいてみてるわけさ」
「……強くなろうとしているの?」
「ある意味ではな。俺の気分としては、強くなるってより、うまい具合に活躍できる方法を探すって感じだけど」
「……ムツキはすごいんだな」
「そうだったのか。初めて知った」
「すごいよ。何ていうか、すごく、すごい」
「お前もすごくなればいいじゃん」
「できるかな」
「やってやれ。お前は強いんだからさ。俺なんかよりずっとすごくなるさ」
 最後に一度だけ頭に手を置いてから、木刀を担ぎミライから離れる。改めて木刀を握りこめば、精神がぐっと引き締まった。さて、稽古の再開だ。パフォーマンスがてら、彼女に頑張っている姿を見せようじゃないか。
 できないなりに、できるようになる。そうなれば、黒くて暗い霧が晴れていくと信じて、木刀を振った。






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 この世が弱肉強食で成り立っているとして、強者を差し置いて生き延びた弱者に、はたして価値はあるだろうか。

 片膝を抱えて壁に寄りかかり、灯りのない空間でうつむく。絵面の虚しさは自覚している。難波姓に宛がわれた部屋だが、しかしムツキとイチヒを除く五人はそれぞれ用件があると表に出ていた。おおかた13班準所属として、本隊に代わって危険な雑用をこなしているのだろう。左腕に真紅の腕章を巻きつけて。
 腕章は、ムラクモへの所属を決めた難波家全員に用意されたものだが、ムツキはそれを巻けていない。目に届く範囲に置いて、それからどうすることもできない。
 例えば、そばに立てかけてある刀もそうだ。鞘に収まったそれを触れることができない。なのに離れることもしたくない。
 刀には過去と悔恨が詰まっている。
 腕章には未来と覚悟が詰まっている。
 ムツキは、どちらにも手を伸ばせないでいた。

 刀は、元は父親の得物だった。現役の難波で一、二を争う剣士だったが、少し前に母親共々ドラゴンに食べられて戦死した。
 まぶたを閉じるだけで鮮明に蘇る。
 才能に満ち溢れ戦闘を得手とする親族の中で、ムツキは幾分劣っていた。高校でいくら目立っても親族からの扱いはあまりに空虚で、居心地の悪さと自信喪失は日に日に悪化する一方だった。そんな中でのドラゴンだ。初めて対峙した瞬間、強大な恐怖が生気と力を奪っていった。「無理だ」「勝てねえ」「逃げないと」いくら喚いても聞き入れられず、どころか両親は庇うように前に立ち、難波の誇りを胸に武器を掲げた。「大丈夫。難波は負けはしない」残した言葉に反して、末路はあまりにあっけなかった。よりどころを失った刀は切っ先を大地にうずめる。命尽きた下半身はゆっくりと崩れ落ちて現実感を削いでいく。失われた上半身はドラゴンの嚥下を境に消えていった。頭が真っ白になっても尚、全てをスローモーションに捉えたあの感覚は、確かに絶望だったのだろう。
 引っ張られる形で命からがら逃げ出し、適当な廃墟へ避難してもそれは続いた。難波の上層を支配する老人たちの敵意、或いは失望が込められた眼差しは、絶望の度合いとしてはドラゴンの牙と同等だ。当時の当主にはいよいよ見限られて、戦力の頭数から外され得物を没収された。父方の祖父である難波に至っては底も天井もない憤怒を表し、一度は形見の刀を抜きそれを向けてきたほどだ。

――お前のせいで二人が死んだ――
――実力どころか誇りすら継げない恥晒しのせいで――
――お前が代わりに死ねばよかったんだ――

 向けられた真剣と投げかけられた言葉、それらは確かにムツキの心臓を突いたのだろう。祖父を含めムツキを見限った難波らが、ドラゴンに果敢に挑んで死んでも尚、絶望という形で刻まれたままなのだから。
 強者が散って弱者が生き延びる、どうしようもない現実ですら自らを殺す凶器と思えて仕方ない。お前が代わりに死ねばよかった。思い出すたびに頭が痛む。頷けないが首も振れない。
 これでは何も掴めない。

「あのなあ、ムツ。そろそろ元気出していかねえと。いつまでもそんな死にそうな顔してちゃ、身も心も腐っちまうぜ」
 憂慮がありありと表れているが、いかにも言い難そうな慰めだ。イチヒは慰めに限らず、対人とのコミュニケーションを苦手としている。それでも彼なりに気を遣ってくるのは、暫定的に難波家の当主となっているからか、それとも幼い頃からの付き合いである弟分を真に心配しているのか、或いは自身に剣術を伝授した師匠の一人息子だからという配慮かもしれない。どれにしても今のムツキには同じことだが。
「…………悪ぃ」
「いや、謝ってほしいわけじゃなくて。……あのよお、何度も言ってるけど、お前がそこまで気にすることなんて何もないんだぜ?」
 イチヒが以前から繰り返している言い分は、ムツキの心を軽くするものだった。
 曰く、身の程を弁えずに勝てない勝負を挑んだ結果で、忠告を聞かなかったほうが悪い。
 結果的に生き残った難波は、ドラゴンとの戦闘を避けていた若い面々のみで、戦闘の天才の遺伝子を継いでいるという誇りに駆られた重鎮の難波たちは無残な死を遂げた。最初に勝てないと主張したのはムツキで、最初こそ老人たちから散々批難を受けたが、正しかったのはそれだった。だからお前は悪くない。
(それってやっぱ、忠告を言い聞かせられなかった俺も悪いってことじゃねえか)
 向こうにも非はあるが、結局こちらにも非はある。非を挙げるなら、生き残ったひとりひとりも何かしらあるのだろう。結局のところムツキは、自分ひとりが背負いこむ非の重さに潰されそうになっているだけなのだ。
 それもこれも、自分が弱いから。
「……無理強いはしたくないがよ、そろそろ腕章巻いてくれねえか? ムラクモの一員になるにゃ、それをつけねえと始まらないからよ」
「巻いていいのかよ」
「当然。難波はムラクモに所属すると決めた。だからその腕章は、ある意味難波の証でもある。これをつけないってことは、お前から苗字を奪うことになりかねない。こんなむちゃくちゃな世の中で、そんなことしたくねえよ」
「ちょうどいいんじゃねえの。俺に難波は勿体ねえし」
「また老いぼれの戯れ言を。そんなの、もうお前しか気にしてねえって」
 老いぼれの戯れ言。なるほどその表現は正しいのだろう。だが嘘と一蹴するには今までムツキを苦しめすぎていた。戯れ言はもはや呪詛で、彼の一部だ。
 掠れた声でも言い切れるほどに。
「でも事実だろ」
 イチヒはどれだけ長い武器でも、まるで自分の体のように使いこなすことができる。的確な角度、力加減、切れ筋を本能的に導き出し万物を布のように裂く、剣を活かし切る剣の如き剣術だ。彼の肉体は剣を操るソフトウェア、もしくは握った剣と融合する特性を持っている。そう語ったのは彼に剣を教えたムツキの父親だ。
 イチヒの許婚である難波イツカはとにかく速い。思考を挟まず瞬時に行動を起こすことができるため、余計なラグが生じない。これもまた本能なため考えなしな面があるのは否めないが、何も考えずに銃を使いこなす技能を得てからは彼女を止められるものはいなくなった。
 イツカの弟である難波トウシは、一言で表せば怪物だ。生まれた時から身体能力のスペックが狂っていて、生まれたその日に産婆の手をへし折ったというのは今でもたまに語られている。現在戦闘が許されていないのは、最年少であることに加え、スペックを制御しきるほどの特訓を受けていないから。しつけのなってない怪物を放し飼いにするほど難波は馬鹿じゃない。
 他にも、即座に判断してためらわず実行することができる、イツカとは違う意味で危うい行動力を持つ難波ナナミ。病弱な体を持って生まれながら、僅か十歳で自らのフィジカルをデータに変換し、そこに身体補強プログラムを埋め込むことで無理やり頑丈な体を得た実績がある難波レイコ。難波バンリに至っては先祖代々から受け継いだ妖怪を体に宿しそれらを利用して超常現象を巻き起こすと、あまりにむちゃくちゃだ。
 対する難波ムツキはどうだ? 得意分野は料理と、あとはちょっとの勘の良さ。
「あのなあ。戦闘能力だけが才能じゃねえじゃん。俺、お前の料理以外食べたくないし」
「……ああ、調理係なら悪くないかもな」
 自嘲気味に笑ってみせても虚しさは塞がらない。
 黒くて暗い霧のような感情が心の中から溢れてきて、思考と双眸を濁していく。どよどよと曇る景色、イチヒや室内のインテリアすら今や遠い。
「いいね、厨房が俺の戦場ってか。それなら自信あるし、適所としては妥当なところだろうよ」
「……えーと、うまいもん食える機会が増えるのはこちとらめちゃくちゃ嬉しいがよ、……お前はそれでいいのか?」
「いいに決まってんだろ」
 口から零れる黒い霧。
「足を引っ張って仲間を死なせるよりは、ずっといい」
 空気に触れて飛散した霧は宿した色素をも失っていく。黒い霧はすぐに消えた。言わなきゃよかった。漠然と思う。
「ムツ」
 目の前にいるはずのイチヒの呼び声が、何故かとても遠くに感じる。
「俺はさ、お前にちゃんと戦ってほしいって思ってんだよ」
「本気かよ」
「本気も本気、大本気さ。なんつーの? お前が必要っつーか……せっかく剣が使えるんだし、それを生かさねえと」
「イチ兄には及ばねえよ」
「そりゃ、まあ、人生の差もあるけどよ。でもマモノは倒せるじゃねえか」
「ドラゴンが乱入するかもしれねえだろ」
「来る前に逃げちまえばいいんだよ。ドラゴンに敵わないのはみんな同じだし。勝てる奴だけが挑めばいい」
「逃げれんのかよ」
「さっさと気付いて、目を合わせる前に動けばどうにかなるだろ。そういうの察知するの、お前得意だろ? 気が利くし、勘がいいし。引き際を見抜くのは俺らの中でも一番じゃねえかな」
 勝てない戦いに挑んで負けた両親の姿を、情けなく叫んだ事実と共に思い出す。
 あれは引き際だったのか。自分ひとりだけ全身を震わせて腰を抜かしたあれは、虫の知らせだったのか。
 あの時にしかと気を引き締めていれば、醜態を晒したりしなければ、何か変わったのだろうか。
「うまく言えねえけどさ、そういう感じで、戦いでお前にしかできない仕事ってのが多分あると思うんだよ。足引っ張るとかじゃなくて。直接マモノを倒さなくても、もっと、違う仕事がよ。えっと、残った難波がほとんど戦闘寄りってのもあってだいたい攻撃一辺倒だし、あー、レイコっちは例外だけど、俺たち脳筋の支援で手いっぱいになりがちだ。だからお前が周りを警戒してくれるとありがたいなー……って……思ったんだが……どうよ?」
 徐々に言葉尻が下がっていき、しまいには首を傾げてしまうイチヒの姿は非常に頼りない。その気になれば鉛をも斬れる剣豪と化すのだが、剣を握ってない彼はいつもどうにも頼りない。「どうよって言われても」何気なしに言葉が漏れる。
「……よくわかんねえよ。確かにイチ兄たちよりはできるかもしれないけど」
「だろ? だろ? お前はその辺よく気が付くんだ」
「でも、その警戒がどこまで使えるかわかんねえだろ。いざって時の自衛もできるかどうか怪しいし。やばい時にまた庇われてるようじゃ……」
「……ようじゃ?」
 途切れた語尾を復唱されて、消えていった言葉が棘を生やしてよみがえる。
「…………いよいよ難波にいれなくなる」
 老いぼれの戯れ言が頭の中でぐるぐると反響する。そんなわけがないと分かっていても、祖父が遺した呪詛は強い。
 難波には嫌悪感すらあるが、イチヒを始めとした歳の近い親戚とは良好な関係を築けている。何より役立たずの烙印を押された自分を可愛がってくれた両親と同じ苗字を手放すのは恐かった。
 体がかたかたと震え出す。想像するだけで気絶しそうだ。
 自分のせいでイチヒが倒れたら、両親と同じ末路を辿ったら、その時は、本当に。
「いや、あの、あのなムツ、俺たちはやられねえし、やられねえためにもお前の力を借りたいってそう言いたかったんだけどな! ていうかお前さ、昔から頭いいけど、頭いいから時々考えすぎちまうよな! 頭が悪い俺とかイツカちゃんは考えなしにがんがん動いちゃうんだけど、あー、えーっと」
 目に見える慌てようでしどろもどろに言葉を選んでも、ムツキの心には届かない。それを察したらしいイチヒは、さらに落ち着かない口調で無理やり言を続けた。
「とりあえず! とりあえずでやってみねえか! あーだこーだと考える前に実行してみんだよ。とりあえず腕章を巻いて……それから……腕を磨いたり厨房に立つなりしてみてさ。部屋のすみでじめじめしているよりよっぽど建設的だと思わねえか!?」
 明らかに苦し紛れだが、勢いと熱だけはやけに入っていた。どうしようもない必死さに怯み、体の震えがぴたりと止まる。
「お前がどう思ってるかはわかんねえけどよ、難波に残るつもりでいるならとりあえず腕章を巻いてくれ! あとはそれから決めればいい!」
「……何でそこまで」
「ここでお前をひとりにさせたら、死んでった師匠たちに合わせる顔がなくなんの! あと、最年長ってだけで当主になっちまった俺を誰よりも支えられるのはお前なんだよ! 俺は忘れねえぞ! 俺が中一でムツが五歳、二人で肉を買いに行った時! お前にとってははじめてのおつかいだったのに、注文でどもった俺に速やかにフォロー入れたじゃねえか!」
「いや覚えてねえよそんなの」
「あれからも支えられまくりでな、ほんといい弟弟子を持ったなって思ったよ! だから、難波にいてくれよ……!」
 途中で紛れ込んだ思い出話にやや拍子抜けしたが、どうやらイチヒはあくまで真剣だ。ここまで言われたら拒否はしにくく、且つ難波に残りたいという願望はムツキにもある。
 とりあえず。あまりにも軽いその響きが黒い霧の中を一時的に照らしていく。
「……イチ兄がそんなに言うなら、とりあえず」
「おう! そうだ! とりあえず! とりあえずで巻いてくれ! それだけで今は充分だ!!」
「身の振り方も考えなきゃだけどな」
「お、おう、そうだな……。じゃあ、どうする? 確かに戦闘班じゃないって選択肢もあると思うし、必要なら本部に進言するが」
「イチ兄さ」
「お、おう?」
「さっき、戦ってほしいって言ってたけど、あれ、なんで? 警戒役云々だけとは思えないんだけど」
 イチヒが目を泳がせて、ぽりぽりと頬を掻く。予想外の質問に対し戸惑うのはいつものことだ。ムツキは静かに答えを待つ。
 やがて重い口を持ち上げて、ゆるやかに語り出す。
「多分だけど、今のお前はどこへ行っても自分を否定して苦しみ続けるんだろうなーって思ってさ。だったらあえて戦場に立っていたほうがコンプレックスも解消するかなー……なんて考えて……」
「……荒療治ね。ま、おおかたそんなんだろうと思ったけど」
「……実は師匠の受け売りなんだがな」
 不意に出てきた名前につい復唱してしまう。「親父の?」イチヒは頷き、言葉を続けた。
「お前に剣を教え続けていた理由ってやつよ。難波での居心地がほんの少しでもよくなるようにってのと、お前がほんの少しでも自分に自信が持てるようにって。あと、強くなれないから教えないのは可哀想だってさ」
「……そうか」
 優しい父親だった。難波姓に誇りを持ちながら、ムツキの才や能力を咎めず、剣の稽古さえ済ませたのなら自由に遊ぶことを許してくれた。イチヒが語った心遣いや意図もうすうす勘付いてはいたが、こうして話として聞くと違う感情が溢れてくる。
 自分を愛してくれた両親は、ムツキの喚きを聞いたのだろう。もしかすれば忠告としても受け取っていたのかもしれない。それでも立ちはだかり、庇うように死んでいった。動けないムツキを守るために。きっとそこに後悔はない。息子だから分かる。勘も良さも自負している。
 足を畳んで立ち上がる。傾いた刀は受け止めた。思ってたよりも軽かった。
「この刀、イチ兄が持ってろよ」
「いいのか?」
「一番の弟子が持ってたほうが喜ぶだろ。刀も、親父も。手入れの必要があると思うけど」
「んー、開発班のにいちゃんに任せるか。あ、お前も、何でもいいから得物用意しとけよ。前のはどっか行ったんだろ?」
「使うかわかんねえぞ?」
「その気がなくとも持っとけよ。そのほうが師匠も嬉しいに決まってる」
「……おう」
 おもむろに歩み寄り、イチヒに形見の刀を突き出す。対するイチヒはそれを受け取るや否や、放置されていた新品の腕章を手にしてムツキに差し出した。
「これがお前の、難波の証だ」
 竜の印が入った真紅。とりあえず受け取ってとりあえず左腕に巻きつける。
 鏡はないが、とりあえず似合っていると思いたい。







リハビリを兼ねて勢いで書いたのでやっつけ感丸出しです。
ほんとに褐色バンダナムツキくんを格好よく書いていじめたかっただけ。

ムツキとミライはCPよりコンビだと思ってるけど、二人ぼっちで会話してるとそういうムードが滲み出る。解せぬ。
これとデストロのフタバを加えた三人で、影無し+プレリザ+怒りの重爆攻めがロマンで楽しいです。
三人はトリオというかひとつのパーティーとして見ています。で、前回はフタバメインで今回はムツキメイン。次はミライメインでも考えてみます。

イチヒは赤スーツ眼鏡でサムライで凄く格好いいのだけど、ただのイケメンは死滅しろ江川さんのボイスからあふれ出る愛嬌のおかげでいまいち残念な人化しました。
ゲーム内のサムライ二人の使い分けとしては、ムツキが影無し、崩し払い、風林重ねといった単独戦闘ができない連携重視に対し、イチヒは不動居、十六手、呼気系に練気手当等、ひとりでも戦える構成にしています。
イズミと戦ったのもイチヒ。慣れ知らぬ強気な女の子にはとことん弱いだろうから、苛々させている気がする。

前回の話と同様、ちょっぴり腕章をプッシュしています。格好いいですよね腕章。
私、あの腕章には通信機やら発信機やら特定個人を表すIDナンバー的な機能やらがついていると勝手に妄想していたりします。もしかしたらカメラもついていて、それからナビたちが状況把握をしたりしているのかしらと思ったりして。
真面目にあの東京での機械技術がよくわかりません。もう好き勝手に考えるしかない。
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2013年09月17日 | Comments(0) | Trackback(0) | ななぞぞ
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